テーブルの上に牛乳パックが出ている。プロテインを作るのに使った残りの分だ。
冷蔵庫にしまおうとパックを持ち上げると、思ったより量が残っていないことに気がついた。これなら飲み切ってしまったほうが良い。
とはいえ、プロテインを飲んだばかりで胃が膨れていた俺は、横でテレビを見ていた彼女に牛乳パックを渡した。
「これ、残り飲んでくれないか」
「いいよー。じゃあコップ持ってくるね」
「コップ?」
残ってるのなんて一口二口くらいだぞ。コップなんて使わないで、そのまま飲めばいいじゃないか。
そう言うと、彼女は「えー」と困った声をあげた。
「私、牛乳パック直飲みってやったことないよ」
「マジで?」
育ちが良いな。俺なんて逆に牛乳飲むのにコップ使ったことないレベルなんだけど。
「確かに、コップ使うと洗い物増えちゃうよね」と言いながら、彼女は牛乳パックをじっと真正面に見据えた。そのまま、哺乳瓶を持つようにして牛乳パックを傾ける。
……ちょっと勢いが良すぎるんじゃないか?
「うぶっ」
案の定、彼女は牛乳パックを離して咳き込んだ。あーあ。
口元を押さえた指の隙間から、白い液体が手首にまで伝っている。むせたせいで目元がほんのりと赤くなって、なんというか、その……非常に扇情的だ。
ついムラっときた俺は、彼女の腕を掴むと、牛乳が伝っている手首に唇をつけた。
「……!」
小さく息を呑む音が聞こえる。
手首の外側から小指の付け根まで、見せつけるように舌を這わせると、彼女の小指が切なそうにきゅうと折り曲げられた。
「な、なんか、卑猥……」
「どっちが」
挑発的に笑うと、彼女はさらに顔を真っ赤にして、「ち、ちが」とか、訳の分からないことをもごもごと呟く。
そういう仕草一つ一つが俺を煽って逆効果になっているってこと、そろそろ君は気付いても良さそうな頃なんだけど。
そのまま奪った彼女の唇は、牛乳風味の甘い味がした。