油断は禁物(修正前)

 「エール様、危ない!!」
 部下のその一言でエール・モフスは我に返った。戦闘中だというのにぼーっとしていたエールの背後に、隙を狙った魔物将軍が決死の勢いで襲いかかる。
この距離では部下の助太刀は望めない。しかしエールも元魔王の血を引く娘、ただ死ぬのを待つほど弱くはなかった。
 「はぁッ!!」
 敵が武器を振り下ろすより先に相手の懐に潜り込み、愛用のレイピアを腹に突き刺す。素早く腹を捌くように刃を横に引く。剣の軌跡から魔力の白い光が放たれた。そして、次の瞬間。
 「っ、しまっ……!」
 突然、魔物将軍の腹に貯留していた緑色の液体が堰を切ったかのように吹き出した。剣を突き立てていたエールは身動きも取れずにその液体を直に浴びる。まるで魔物将軍が体ごと爆発を起こしたような勢いだ。やっと収まった頃には、エールの全身はその粘液質の液体でしとどに濡れていた。咳き込むエールに部下が慌てて駆け寄ってくる。
 「エール様、大丈夫ですか!?」
 「ごほっ、げほっ、うぇ……なんとか、平気」
 エールは口の中に残っていた粘液を吐き捨て、自分にヒーリングをかけた。神魔法の効果でみるみるうちに粘液が消えていく。全身の気持ち悪さまでは消えなかったが、城まで帰る分には全く問題なさそうだ。
 魔物将軍内にいた女性を保護するよう部下に指示し、城への帰路につく。粘液を浴びたせいか全身が重だるく、早く城に帰って風呂に入りたい一心だった。

 魔王を倒した後も、こうして時々魔物や鬼、妖怪達による蜂起が発生する。それを収めるのは各地にいる武将と、山本乱義の右腕として織田城に控えるエール・モフスの役目だった。織田城から遠ければ各地の武将が鎮圧してくれるが、今回は織田城近辺に出没したのと、魔物将軍という強敵だったこともあってエールが討伐に行くことになった。
 城に帰ると、評定が開かれるとのことでエールは身なりを整えてすぐに城の広間へ向かう。
 「……!」
 「エール様!」
 急に目眩がして、エールは壁に手をついた。なんだろう、この視界がふわっと曲がる感じは。それになんだか息苦しくて、熱い。
 しかし部下に心配をかけるわけにもいかず、ましてや評定を欠席するわけにもいかないので、エールは頭を振った。
 「ごめん、目眩がしただけ。ありがとう」
 そう言って広間への襖を開ける。既に広間へと集まって世間話をしていた武将達は、エールの姿を見て頭を下げた。口々に活躍を労う者達にエールも頭を下げ、所定の位置につく。

 評定が始まり、3Gの声で乱義が入ってきた。皆が一斉に頭を下げ、エールも頭を下げる。頭を上げて乱義の顔を見た、その時だった。
 「ッ……」
 エールの心臓がドクン、と跳ねた。いつも見ているはずなのに、なぜか乱義の顔を見ると胸がドキドキして息が早くなり、下腹の辺りが熱くなる。本能がこの男に抱かれるべきだと叫んでいるような気さえしてきた。
 (これは……)
 この全身が熱くなる感覚には覚えがあった。以前2回目に翔竜山に登り、魔人リズナのフェロモンを受けたときのことだ。もしかすると魔物将軍の体液には催淫効果があったのかもしれない。そんなものを頭から大量に浴びたとあっては体がどうなるかわからない。エールの体を焦りがじわじわと蝕んでいった。
 (まずい、早くお風呂入らないと……)
 不思議そうな顔をしてこちらを見ている乱義と目が合う。すると下腹がきゅんと締め付けられるような気持ちがして、不埒な想像がバレてしまうのではないかとエールは慌てて目をそらした。
 乱義が腰を下ろすと、広間全体がパリッとした緊張に包まれた。
 「先ほど出没した魔物将軍による反乱はエール・モフスによって鎮圧された。エール、ご苦労だった。報告を頼む」
 「……は」
 皆の視線がこちらに向けられる。エールは一呼吸遅れて、からからになった口を開いた。
 「ま……魔物将軍とその部下の魔物50体は全て討伐致しました。我々の小隊に犠牲者は出ていません」
 緊張によるものだけではない汗が噴き出てくる。気を抜けば声が震え、あらぬことを口走ってしまいそうになるのを気合いで堪える。
 「……魔物のうち一体を尋問したところ、ある妖怪の手引きでここまで来たとのこと。その妖怪も既に討伐しております。魔物将軍内に捕らえられていた女は保護し、身元が確認され次第適切な場所へ帰す所存です」
 「そうか。本当にご苦労だった」
 乱義の声がいつにも増して甘く聞こえる。なんてことない、既に飽きるほど繰り返されているそのやり取りでさえもエールの熱をひどく煽り、体中の力が抜けそうなほどだった。
 「……」
 乱義はその様子に気づいているのかいないのか、エールを一瞬探るように見つめると、何事もなかったかのようにまた全体に向け一言二言喋り、評定を終わらせた。
 (や、やっと終わった……熱い……)
 解放感からか、戦闘の疲れが出たのか、評定が終わったと同時にエールは体が鉛のように重くなるのを感じた。はぁあ、と熱の籠ったため息を吐き出す。こうしている間にも催淫効果がどんどん現れ、エールの体は先ほどよりもずっと熱くなっていた。早く風呂に入ってこの熱さも気怠さからも解放されたい。そう思って立ち上がったエールの腕は、何者かに掴まれた。
 「……乱義、様……」
 いつの間にか近くにいた乱義が人好きのする笑みを浮かべて立っていた。急な接触に驚いたが、公衆の面前だということを思い出して敬称を付け足す。
 「エール、ちょっとこっちへおいで」
 優しげな口調の割に腕を掴む力は強く、抵抗はできそうにない。乱義の袖を掴んで若干の反意を見せたがあえなく黙殺されてしまい、逃げるほどの体力も残されていないエールはそのまま引きずられるようにして乱義に連行された。

 連れてこられたのは広間から少し離れた人気のない一室だった。部屋に入った途端に畳へと引き倒されたエールはぎょっとして乱義を見上げる。
 「何があった」
 乱義の真剣な目がエールを突き刺す。見透かされている、エールはそう思った。特に悪事を働いたわけではないものの、蛇に睨まれた蛙、猫に捕まった鼠のような気持ちがして、エールは目をそらすことも出来ないまま震える唇を開いた。
 「ま……魔物将軍と戦って、それで……近くで粘液を浴びちゃって」
 「魔物将軍の体液を?」
 そう言われるとさらに気持ち悪く感じる。エールは顔を顰めたが、話は事実なので頷いた。乱義はなるほど、と納得して頷く。解放してもらえるかもしれないとエールは安堵の息を吐いた、が。
 「だからそんなに物欲しそうな顔をしていたんだね」
 「んっ……!」
 乱義の手がエールの頰をつぅ、と撫でる。ただそれだけなのに、粘液の効果で鼻にかかった甘い声が漏れてエールは奥歯を噛み締めた。更に乱義の声が降ってくる。
 「でも、評定の場には他の男もいただろう? エールは僕のものなんだから、他の男にそういう顔を見せてはいけないよ」
 ぐちゅり。
 「ふ、あ……!」
 頰を撫でていた乱義の指がエールの唇を割って入り込む。驚きで口を開くと指がさらに奥へと侵入し、熱く溶けたエールの舌がふにふにと弄ばれる。
 「んぅ、うっ……」
 唾液を絡ませた指がエールの舌や頬の内側、口蓋を余すところなく懐柔していく。苦しいはずのその刺激も今のエールには快感しかもたらさなかった。飲み切れなかった唾液が口の端からこぼれていく。指が抜かれる頃には、エールはすっかり発情して蕩けきった顔で乱義を見上げていた。
 「……それで」
 乱義が妖艶な笑みを浮かべる。これからされることを想像して、エールの下腹部ははしたなく疼いた。
 「どうされたいんだい?」
 もはや抵抗の選択肢など残されていなかった。

 締め切った和室には肉のぶつかる音と嬌声、そして絶え間ない水音が響いていた。無口でミステリアスだが美人、そう評されているエールの顔は今や快楽そのものといった表情で蕩けきっている。薄い唇からはひっきりなしに甘い声が漏れ、たまに舌ったらずに「もっとぉ」などと催促してくるものだから、乱義は自分の理性を総動員してエールを壊さないよう我慢するのに苦労した。
 エールの膣内を貪るように穿っていると、急に中が不規則に痙攣しだす。ああまた達するのか、と思いながら乱義はさらにエールの足を高く持ち上げ、最奥を抉るように腰を打ち付ける。エールの悲鳴がさらに甲高くなり、限界が近いことを知らせていた。
 「ひッ、あぁ!!ら、んぎ、イく、ぅあぁっ、ッ〜〜〜!!」
 エールは可愛い声をあげて絶頂を迎えた。搾り取るような膣内の動きに乱義の吐精感も高まり、そのままエールの最奥に射精する。何度中に出したかは忘れてしまったが、結合部からは断続的に乱義の精液とエールの愛液が混ざったものが溢れ出していた。
 乱義もエールも閨事に関しては父の影響を色濃く受け継いだのか、常人に比べれば格段に激しい営みをしているにも関わらず、まだまだ体力的な限界は訪れなかった。そこは父に似て良かったと乱義は思う。こんなに可愛いエールのことはどれだけ犯してもまだ満足できない。エールも乱義のねちっこいとも言える責めに意識も飛ばさずよく付き合っている。
 エールは肩で息をしながら、ぼんやりと快楽の余韻に耽っているようだった。先程までは狂ったように乱れていたが段々と大人しくなってきているので、粘液の効果が切れてきたのかもしれない。
 ずるりと自身を引き抜くと、エールが思ったより焦点の合った目でこちらを見てきた。どうやらまだ行けそうだ。
 「エール、体の調子は?」
 「はぁ、はっ……だ、だいぶ、ましになった」
 そう答えると、エールは恥ずかしいのか顔を赤くして目をそらす。その表情に乱義の加虐心が煽られた。
 「そうか。でもまだ罰が残っているよ」
 「え?」
 きょとんとしているエールをひっくり返し、後背位の状態にする。これからされることを薄々感づいたのか、エールの体が硬くなった。
 「な、なに……?」
 「体液を浴びるほどの至近距離で戦うんじゃない。危ないだろう」
 「んやああぁぁっ……」
 そう言いながら、もう一度乱義は自身をエールの中に埋めていく。散々懐柔しきったエールの膣内はほかほかに蕩けきっていて、不規則な収縮を繰り返していた。
 「今回は魔物将軍だったから大した害はないけど、もし敵が毒を持っていたらどうするんだ」
 「っ〜〜〜〜!」
 手をエールの乳房に伸ばす。すっかり硬くなった蕾をコリコリと転がすと、エールが首を反らせて声にならない嬌声を上げた。快感から何とか逃れようと身を捩りながら、エールは息も絶え絶えに返した。
 「どく、だったら、ヒーリング、使えるからぁ……」
 「でも催淫効果は解けないだろう?」
 「ぁああああッ!!」
 口答えは良くないよ。そう言って乱義は空いているもう片方の手でエールの陰核を摘む。弛緩していたエールの背筋がまたピンと張り、ガクガク震えたかと思うと、ぷしゃぁ、と音がしてエールの尿道から透明な液体が漏れた。潮を吹くほど気持ちいいんじゃお仕置きになってないかもな、と乱義は頭の片隅で思う。
 「ごめ、ごめ、なしゃっ!あ、あんんっ!あやまッ、るからぁ!」
 腰をゆっくり動かしながら乳首と陰核を撫で回すと、エールが悲鳴をあげてぶんぶんと首を振った。ずいぶん感じているのか、そう奥まで挿し込んでいないにも関わらず子宮口に当たる感触がする。そこに当たるたびにエールの言葉が途切れ、膣肉がうねって乱義を締め付けた。
 「何が悪かったのか、言ってごらん」
 一旦責める手を止めて問うと、エールは首だけでこちらを振り返った。上気した頰はうっすらと桃色に色づき、真っ赤に染まった唇からはいっそ毒々しいまでの色気を放っている。肩で息をしながら、エールはおずおずと様子を伺うように言った。
 「ま、魔物将軍の、体液浴びて……え、えっちな気持ちになっちゃったこと……?」
 「…………」
 怒りか、それとも興奮か。
 それまでの我慢も虚しく、ぶちり、と乱義の理性の緒が切れる音がした。
 「違うだろう」
 両方の手で腰を掴み、ぐぐっとエールの奥へ体重をかける。エールが息を飲む音が聞こえた。
 「そういう隙を作ったことだって、エールはわからないのかな!」
 「んあああああああ!!!」
 先ほどとは比べものにならない抽送の激しさに、エールから絶叫が上がった。エールを労るような優しさは捨て去り、彼女の肉体をただの物として消費するかのように荒々しい動きを繰り返す。それでもエールの口からは苦痛の呻き声ではなく歓喜の喘ぎ声が上がり、大量に分泌される愛液で膣内の動きがますます滑らかになっていった。
 「ごめ、ごめなひゃいぃい!こわ、れ、ひゃう、からぁあ!!あぁあっ、やめ、やめてえっ」
 エールの首筋には玉のような汗が浮かび、動くたびに髪が張り付いた。エールの爪が畳を引っ掻く音が、水音に混じって微かに聞こえてくる。それもエールの喘ぎ声でかき消された。
 「ふぁっ、あう、らんぎ、らんぎぃい!ごめ、もう、しない、からあッ!!こわしゃないでええッ!!」
 「はッ……壊れて、いいよ」
 「や、いや、いやぁああっ!こわれッ!こわれちゃッ……!!あぁああッ、あ、ああ、」
 いっそ壊れてしまえ。快楽でぼやける思考の端でそんなことを思いながら、乱義は腰を掴む手に力を込めた。エールの嬌声がますます大きくなり、やがて訪れる絶頂の予感に震えている。彼女の肉襞が射精を急かすかのような収縮を繰り返し、乱義も息を詰めてラストスパートと言わんばかりに抽送の速度を上げる。もうこの女に種付けすること以外は何も考えられなかった。
 「くっ、エール……中に、出すよ」
 「ッ……!!あ、あっ、ふぁぁあああああああっ……!!!」
 一際強い快楽の電撃が走り抜け、乱義はエールの最奥に精を放った。絶頂を迎えてビクビクと動くエールの腰を掴み、一滴も溢すまいと上体を折りたたんでエールと密着する。乱義の体もエールの体も溶けてしまいそうなほど熱かった。そのまま溶け合ってしまうのではないかと思うほどに。

 「流石にやり過ぎたかな……」
 疲労感のあまり眠ってしまったエールの着衣を整えながら、乱義は呟いた。ある程度は拭いたものの、未だにエールの膣口からは乱義の精液が漏れ出ている。腰にはうっすらと乱義の手の跡が残り、情事の激しさを物語っていた。
 肉体的な相性が良好なのと、乱義の本気に付いて来れるというのもあって、エールと交わる時はつい羽目を外してしまう。男子たるもの閨では気配りを忘れずに、というのは鉄則なのだがエールの可愛らしさの前では吹き飛んでしまった。
 汗で張り付いたエールの前髪をそっとかき分ける。すうすうと心地好さそうに眠るエールの顔を見て、乱義はため息をついた。
 「外に出せばそれだけ危険も増える、ということか……」
 白く細い喉を指でなぞる。擽ったさからなのかエールが身じろぎした。
 エールがJAPANの武将として、そして将来乱義の嫁として生きていくのにあたって、他の武将からの評判は大事なものとなる。そう思い彼女が乱義の側近となってから様々な任務に行かせてきた。あの父の血を受け継ぐだけあって今までは怪我一つ追うこと無く帰ってきたが、このように危険な目に合うことも考えられる。もしかしたら乱義の手を離れてしまうこともありえるかもしれない。
 そうなるくらいなら、いっそ……
 「……ふっ」
 そこまで考えて、乱義は目を閉じた。そんなことは人道的に許されないとはわかっているのに、酷く甘美な選択に思えてしまう自分が滑稽だった。