だいきらい

 思わず舌打ちが出た。
 目の前でポケモンに襲われそうになっているのは、自分がこの世で最も目にしたくない少女だった。右足を押さえ、ポケモンボールを出すことも忘れたまま、目を見開いて猛獣の前にしゃがんでいる。
 どうせ、足を挫いて動けなくなっているところを見つかったんだろう。
 そのまま見殺しにしても良かったが、アルセウスに認められようとしている存在がこんなしょうもない死に方をされては困る。
 ウォロはガブリアスを出すと、猛獣に向かって威嚇させた。たったそれだけで、彼女を襲おうとしていたポケモンは怯えて退散していった。

 「口ほどにもない……」

 彼女——ショウだって、自分のポケモンを出しさえすればこんなポケモンくらいどうとでもなっただろう。どうしてそんな簡単なことさえ思いつかないのか。
 ウォロは興冷めするような思いでショウを見やった。
 ショウは安堵とも驚愕ともつかない表情でウォロを見つめていた。その顔に、ウォロは旅に出てから久しく忘れていた邪悪な感情が、腹の底からむずむずと湧いてくるのを感じた。
 やはりこいつのことが嫌いだ。
 さっさと踵を返そうとしたウォロの耳に、先程とは別のポケモンの遠吠えが聞こえた。

 「「……!!」」

 ウォロもショウも、耳をそばだててその遠吠えに耳を澄ませた。
 地を揺るがすような強く太いこの声は、間違いなくオヤブンポケモンのものだろう。それも、先程のポケモンとは比べ物にならないほど強力な。
 同時に、足元からか細い声も聞こえてきた。

 「た、助けてください……」

 はっとして下を見ると、ショウが目に涙を湛えてウォロを見上げていた。
 ウォロは目眩を覚えた。
 怒り。軽蔑。自嘲。興奮。様々な感情が、ウォロを飲み込もうと襲いかかってくる。
 だが、その感情を悠長に解釈している暇はなかった。先程の遠吠えが、今度はより近くで聞こえてきたからだ。

 「チッ……掴まってろ!」

 ウォロはショウを抱えると、ボールから出したウインディの背に跨った。ショウの小さな手がウォロの服を必死に掴んでいた。
 
 
 
 やって来たのはそう遠くない場所にある洞窟だった。ポケモンも人もめったに寄り付かないこの場所を、ウォロはよくねぐらとして利用していた。
 地べたにショウを座らせると、ウォロは有無を言わさず彼女の右足の裾をまくりあげた。細い足首は腫れ上がり、赤紫色に変色している。素人目にも骨が折れているとわかるほどだ。

 「……じっとしていなさい」

 そう言うと、ウォロは近くの茂みからなるべく丈夫そうな枝を取ってきて、彼女の足首の添え木にした。晒布でぐるぐる巻きにすれば、簡易な固定の出来上がりだ。
 晒布を結んだ手を離すと、ショウがほっと息を吐く音が聞こえた。

 「ありがとうございます、ウォロさん」

 安心しきったように笑うショウに、ウォロは再び気が狂いそうなほどの苛立ちを覚えた。

 その顔が大嫌いだ。
 すぐに人を信じる、その性根が大嫌いだ。

 イチョウ商会の一員としてショウに近付いた時から、ウォロはショウのことが気に食わなかった。
 突然見ず知らずの世界に来たというのに、すぐにコトブキムラやギンガ団の人々を信じ、彼らのために働いているところ。そんな彼らに村を追い出されても、悲しい顔をするばかりで、微塵も村の人々を恨んではいなかったところ。
 極めつけは、壊れたギラティナの像を前にして、珍しく自分が饒舌になってしまった時のことだった。
 「幼い頃から、辛いことや悲しいことがあると、なぜこんな目にあうのかとひたすら考えたものです」——そう語った時、彼女はきょとんとした顔をしていた。全然ぴんと来ていない、そんな顔だ。その顔を見て、彼女は自分と全く異なる人種なのだと察した。それはある意味、絶望にも近い感情だった。
 ああ、彼女はきっと、愛されて育ったんだ。
 それが憎たらしくてたまらなくて、ウォロは力づくで彼女のプレートを奪おうとした。結果、敗れた。そして彼女はアルセウスに認められ、会う資格を得た。

 だが今は、ウォロは完全に優位に立っている。ショウは足が折れているし、助けてくれたウォロに対する敵意などこれっぽっちもない。
 これだけやってやったんだ、助けた見返りを請求しても良いだろう。
 ウォロは顔に笑みを貼り付けて、ショウの眼前にずいっと迫った。

 「せっかくですから、貴方の秘密を解き明かすことにでもしましょうか」
 「え? ひゃっ」

 頬に触れられたショウは、短い悲鳴を上げて肩をすくませた。彼女の意思などお構いなしに、顔をべたべたと触っていく。
 髪も目も肌も、特に何の変哲もないただの人間のそれだ。顎を両手で掴むと、ショウの口が小さく開いた。すかさずその中に親指を突っ込んで、口を大きく開かせる。仰け反ったショウが、ごち、と後頭部を壁にぶつける音がした。

 「歯は何本生えているのでしょう。親知らずは?」
 「は、はえへまへん……」

 戸惑う彼女の口腔は、そこだけなにか別の生き物のように赤くぬらぬらと光っていた。小さな舌が、居心地悪そうにもぞもぞと動いている。
 それを見て、ウォロの背筋をぞく、と鳥肌が立った。

 これは、良い。

 かつて自分を負かしたショウが、今は自分のなすがままに口の中を晒している。奥歯に置かれたウォロの親指を噛むこともせず、ただじっとウォロの様子を伺っている。
 なんという征服感だろう。
 気分の良くなったウォロは、片手で口を開かせたまま、もう片方の人差し指と中指をショウの口内に滑り込ませた。

 「っ、んぐ……!」

 喉の奥を刺激されたショウがえずく。吐瀉物の代わりに滲み出てきた唾液を絡ませて、ウォロはショウの舌を二本の指で弄んだ。
 表面を撫でたり、側面を擦ったり。逃げる舌を追い詰めて、からかうようにつついたり。
 硬口蓋を指でつぅっとなぞると、ショウの腰がびくびくと跳ねた。

 「あぅ……!」

 ショウは赤い顔をして、切なそうに眉根を寄せている。不快を訴えているような顔にはとても見えない。
 上手く飲み込めないのか、口の端から唾液がこぼれ落ちた。指を引き抜くと、透明な橋が伝った。

 「っ、けほっ、こほっ」

 ショウは口元を押さえて噎せている。体勢を立て直す隙を与えないまま、ウォロは彼女を洞窟の床に押し倒した。折れた足首に響いたのか、ショウの顔に苦痛の色が走った。
 そんな彼女の様子には一瞥もくれないまま、ウォロは馬乗りになって彼女の着物の帯を解いた。この段階になっていよいよ、ショウの顔から血の気が引いた。

 「な……なにしてるんですか」
 「なんだと思います?」
 「えっ……」

 質問に質問で返されると思っていなかったのか、ショウは困惑して黙り込んだ。もしかすると、彼女はこれから行われる行為をわかっていないのかもしれない。そんな幼稚な人間に負けたのかと思うと、ウォロは怒りで目が眩みそうだった。

 肌着をめくりあげ、彼女の胸を外気に晒す。ショウが息を呑む音がする。初めて抵抗の素振りを見せた彼女の手首を一纏めに捻り上げ、洞窟の床に押し付ける。拍子抜けするほどあっけなくねじ伏せられた。
 薄っぺらい脇腹が顕になる。この薄い皮膚の向こうには、人間の急所があった。奥にある臓器の感触を確かめるようになで上げると、ショウの背中がぞくぞくと動いた。

 「ふっ、うぅ」
 「怖いですか?」

 ウォロが尋ねると、ショウははっと目を見開いて、思ったより気丈な目でウォロを睨み返してきた。

 「こ、怖くなんか、ないです」
 「そうですか。では続けますね」
 「えっ、あ、んん!」

 肌寒さにつんと立っていた乳首を、親指と人差し指で捏ねるように転がす。押さえつけている手首がぴくん、と震えて、ショウは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 いっそ怖いと言って泣き喚けばいいのに、彼女は助けを呼ぶことすらしない。こうしてウォロに嬲られても、ただじっと息を堪えるようにして耐えている。
 そういうところも嫌いだ。
 ウォロはショウの拘束を解くと、彼女の股引に手をかけた。

 「待っ……!」

 慌てたショウの口から飛び出た制止を無視して、ウォロは下着ごと股引をずりおろした。
 脚の間から手を差し込み、秘裂を指でなぞる。わずかに濡れていたが、今のままではとても挿入には耐えられそうになかった。

 「経験は?」
 「け、けいけん? なんの?」
 「無さそうですね」
 「な、ないです! だから、やめ、〜〜〜っ!」

 ずぷ、と指を一本ねじ込む。きついが、どうにかほぐせるだけの余裕はあった。
 彼女の膣内も、口の中と同じように温かくて、濡れていて、蠢いていた。指を動かすたびに、固くこわばっていた中が軟らかくなっていくのを感じる。顔も思考も幼いくせに、体だけは男を受け入れる準備を勧めている。愛し合っているわけでもない、むしろ憎悪から自分を襲おうとしている男を。

 指が二本入るようになって、ウォロは指を引き抜いた。ゆるく立ち上がっていた自分のものを何度か扱いて、ショウの入り口にぴとりと当てる。
 ショウの尻が、ぴくりと震えた。

 「ま、まって……」

 か細い声が聞こえた。
 目が合ったショウの顔は、怯えていた。

 「……はっ」

 ウォロは全身に鳥肌が立つのを感じた。
 
 その顔が見たかった。
 どんな困難にも折れなかった少女が、恐怖を前に絶望する顔。自分を征しアルセウスを従える権利を与えられた少女が、逆に自分に屈服せしめられる時の顔。

 ここまで優位に立ってようやく、ウォロの心を温かい感情が包んだ。

 「可愛い」

 心からの笑顔で、ウォロは一思いにショウを貫いた。

 「っぐ、あぁ——!!」

 少女のものとは思えない、苦悶に満ちた呻き声が上がる。困惑と絶望で、ショウの瞳は薄く濁っていた。そんな顔もできたのか。知らない彼女の一面を見たことに、ウォロは興奮する。ショウは苦痛で、ウォロは高揚で、それぞれの息が上がる。
 息をする度に、彼女の薄い腹がぺこぺこと動いていた。

 「はーっ、はーっ……」
 「……ふふ」

 額に脂汗を滲ませて、どうにか痛みを堪えるショウを見ていると、思わず笑みが溢れてしまう。
 もっと彼女の顔を近くで見たい。
 ウォロはぐっとショウに体重をかけた。尻が高く持ち上げられ、ショウは地面とウォロに挟まれるような体制になる。

 「っふ、ぅうう……っ」

 結合の角度が変わると深さも変わるのか、ショウが鼻にかかった高い声を上げた。心なしか、中の滑りが少し良くなったように感じる。心の方は知らないが、体の方は受け入れる準備が出来てきたということか。

 ふと、固定されている右足が視界に入ってきた。そういえば、足が折れていたんだったなと今更のように思い出す。
 折れた足の痛みに加えて、こんな形で破瓜の痛みも味わうことになったショウは本当にかわいそうだ。
 それが、たまらなくウォロを興奮させた。
 ウォロはショウの膝裏を押さえつけたまま、ほとんど欲望の任せるままに腰を打ちつけた。

 「あぁっ! まっ、や、あ、あっ!!」

 肌のぶつかる音に加え、少女の断続的な甲高い悲鳴が響く。彼女が自分に組み伏せられているという視覚刺激も、下品で淫らとしか言いようのない聴覚刺激も、何もかもがウォロの性欲を駆り立てた。
 神と呼ばれしポケモンを従えた少女が、自分の下で喘いでいるなんて。
 それはもはや恍惚にも近い感動だった。

 「ん、はぁっ、ウォロ、さ、ウォロさん……!」

 やめてほしいのかそうでないのか、ショウが睦言のように名前を呼ぶ。それが鬱陶しくて、ウォロはその唇を自分の唇で塞いだ。

 「んん!? ふっ、んぅ、んむー……!」
 
 ショウの唇は小さすぎて、ウォロが口を開けると顎まで食べてしまいそうだった。舌を絡めて唾液を吸って、もうほとんど捕食しているような気分だ。
 彼女の全てを貪って自分のものにしてしまえば、アルセウスも振り向いてくれるだろうか。
 くだらない考えだとは分かっていても、それに縋りたくなった。だが流石に人の血肉を啜るのは、古代シンオウ人の血を引く者としてのプライドが許さなかった。
 少し迷った末、ウォロは彼女の舌を吸って、軽く噛んだ。途端、彼女の背中が痙攣するように跳ねた。

 「! 〜〜〜!!!」

 声にならない悲鳴が上がるのと同時に、ショウの中がきゅうっと強く締まった。達したのだろうか。甘く精液をねだるようなその収縮に、ウォロも思わず呻き声を上げる。脳髄がしびれるかのようだ。
 唇を離して息を整えていると、とろんとした顔のショウと目が合った。その満足しきった顔に、ウォロは今までとは別の種類の苛立たしさを覚えた。

 「はぁ……ウォロさん、わたし……」
 「……襲われておいて、先にイってんじゃ、ねぇっ!」
 「ああぁあっ!!」

 まだ絶頂の余韻が引ききらないショウの腰を掴むと、ウォロは激しく腰を打ち付けた。いたわりもへったくれもない注送を繰り返す。物みたいに扱われているのに、彼女の口からはひっきりなしに甘い声が上がっていた。やかましいとは思いながらも、それを聞いていたいと思う自分もいた。
 まるで恋人同士みたいだ。
 そんなことを思いながら、ウォロも彼女の中で果てた。
 
 
 行為が終わって冷静になってみると、股から血の混じった精液を垂れ流すショウに対して、一抹の申し訳無さのようなものが湧いてきた。ウォロもショウも、土埃と汗とその他諸々の体液でどろどろになっている。
 ショウは上体を起こすと、へとへとに疲れ切った顔で身繕いを始めた。
 ウォロはショウの方を見ずに言った。

 「助けを求める相手を間違えましたね」

 ショウは動きを止め、小さい声で言った。

 「……間違っては、いなかったと思います」
 「は?」

 ウォロは自分の耳がおかしくなったのかと思った。思わずショウの方を見ると、彼女は困ったように笑っていた。

 「だって、ウォロさんは私のこと、助けてくれましたから」

 ——本当に、そういうところが大嫌いだ、と思った。

 ショウの支度が終わるのを待って、ウォロはベースキャンプ近くの開けた道に彼女を置いてきた。二人とも、「さよなら」とも「また」とも言わなかった。
 
 
 
 結局、ウォロは再びあの洞窟を利用することはなかった。何食わぬ顔をして彼処で暮らすには、そこに染み付いた思い出が煩わしすぎた。
 だが、一月以上が経ったある日、ウォロはふらりとその洞窟に足を向けた。近くの林までたどり着いた時、ウォロは雷に打たれたかのように歩みを止めた。
 息ができなくなった。

 ショウが、その洞窟の前で立っていたからだ。
 特に用はないが、なんとなく来てしまった。そんな顔をしている。中に誰もいないのを確認すると、わずかに気落ちしたような表情を浮かべている。

 あんな目に遭っておいて、再びのこのことやってくるとはどういうつもりなのか。一体誰を探しているんだ。自分なんだとしたら、彼女は馬鹿だ。

 馬鹿は自分もじゃないか。 
 どうしてこんなところに来てしまったんだ。あの時のことなんて、とっとと忘れて二度と思い出さなければ良かったんだ。それなのに、一体何を確かめに来たというのか。

 わざと枯れ枝を踏み付け、音を立てるように足を踏み出す。
 数歩歩いても気付かれずに、林を出たところでやっと、彼女と目が合った。
 彼女の目が見開かれた。
 
 
 思わず舌打ちが出た。

2022年2月5日